まばたきの詩人の感謝

水野源三という詩人がいました。

水野氏は、小学4年生の時に赤痢にかかり、その時の高熱で脳性麻痺になりました。それ以来、口もきけず、手も動かず、足も立たずとなってしまいました。

病気になって4年目、12才の時に町の教会牧師が訪れ、彼の元に一冊の聖書を置いていきました。水野氏は母にその聖書のページをめくってもらい、丹念に読んだ後、やがてクリスチャンとなりました。18歳の時からは詩を作り多くの作品を生み出すようになりました。

水野氏は病気により、口をきくことができませんでしたが、「まばたき」によって自分の意志を伝えることができました。どのように行うかというと、まず、ご家族がひらがなの五十音表を指します。その指先を見て、自分の伝えたい文字の所に来るとまばたきをするのです。あるいは五十音を耳で聞き、表現したい音の箇所でまばたきをします。それを紙に書き留めてもらうのです。

たとえば、「神」と言う言葉を書こうとすれば、アカサタナの「カ」でまばたきし、「カキクケコ」の「カ」でまばたきします。これで「か」が伝わります。次に、「アカサタナハマ」の「マ」でまばたき、次にマ行の「ミ」でまばたくのです。こうして「かみ」ということばを伝えるのです。

彼はそのまばたきにより何万もの詩や短歌を作り、多くの人を力づけなぐさめました。その作風は、神への喜びを表す純粋な詩であったといいます。47歳で惜しくも亡くなりましたが、その死が近いある日、つぎのような短歌を詠んでいます。

「幾たびもありがとうと声だして 言いたしと思い今日も日暮れぬ」

47年間、結婚もできず、外の散歩も叶わず、花を摘む事すら許されず、食事も排便も人の手を借りなければならない状態にありながら、水野氏は感謝の思いにあふれていました。

人は手足が自由でも、口がきけても、朝から晩まで愚痴や不満を言いながら生きることがあります。持っているものがあるとしても、感謝し続けるということは簡単なことではないのです。

すべての事について、感謝しなさい。これが、キリスト・イエスにあって、神があなたがたに求めておられることである。

テサロニケ人への第一の手紙 5:18

彼は、この聖句を体現した人生を生き抜きました。

彼の人生を追うとき、キリストを信じること、また彼が信じるキリストがどういう心を持つ人物か知ることができます。